Act#19 手駒の死に様

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 なんということだ。

 アトモスはその光景を見て、愕然とした。


 しかし、何か懐かしいものも感じていた。

 それは昔、アトモスがまだ幼い少年だった頃に、父親であるウィドウと一緒に見た光景だった………。



 ………遡ること数百年前。



 天界とワルマ族の大戦のさなか、先代のキングワルマは、魔王の召喚の成功に、ある確信を抱いていた。

 それは、美しい歌声を持つ、「幻惑の魔曹・セイレーン」の命と引き換えに、魔界から呼び出すというものであった。

 セイレーンは美しいワルマであった。いつもワルマ族のためを思い、疲れた顔一つ見せずに、微笑んでいた。彼女の歌声は、神との長き戦いに疲弊したワルマの心を癒してくれた。
 彼女は音楽が好きで、その美しい唇の周りには常に音を携えていた。ウィドウはそんな彼女に好意を抱いていたし、アトモスは彼女を母のように慕っていた。そして、セイレーンも、このコウモリ親子を、家族のように愛してくれていた。


 
 セイレーンがイケニエにされると知った時、ウィドウは激怒した。
 ウィドウは息子のアトモスとは違い、血気盛んなタイプで、考えるより先に手が出るタイプだ。そんなウィドウが激昂したとなれば、言葉だけで済むわけがない。運の悪いことに、魔力の強さは五将魔曹のなかでもトップクラスだったため、ワルマゴーストとGZの二人掛かりで押さえつけねばならなかった。

 ウィドウは叫ぶ。
 何故だ!何故大切な仲間を捨てるのだ!五将魔曹の代わりはそういない。大事な戦力をここで失うことになるのだぞ。ミスティーネ地方の守りはどうするのだ!

 戦力のことを言ってはいるが、周りの皆は知っていた。ウィドウの、セイレーンに対する『気持ち』を。だが、誰も、口を開かない。

 そして、ふいに沈黙を破り、セイレーンは、いつものように優しく微笑みながら言った。



「わたし一人の命でワルマ族が生きながらえるなら、本望です。アトモスの将来の姿を見れないのは残念だけど。」

 その後、ウィドウに何か耳打ちをして、満足そうに微笑み、ゆっくりと、長い髪の毛をなびかせ、ローブの衣擦れの音を楽しむように歩いた。

 そして、セイレーンはイケニエの祭壇へ吊るされた。

 ウィドウは微動だにしなかった。
 いつも煩く動き回っているようなウィドウが、何も言わず、空を見つめ、ぼんやりと、しかし、はっきり何かを決意したような表情で仁王立ちしていた。
 アトモスには、イケニエの儀式より、地の底より出づる魔王より、父の見たこともない表情の方が恐ろしかった。

〜 天のお仕事 Act # 19 手駒の死に様 〜